2013年4月12日金曜日

3 : クッキーのはなし<前編> : The story about Cookie




クッキーと私はまだまだ寒い3月の始めに、徳島県の佐那河内村で出会った
徳島県に小田さんという人物がいて天体の研究家であり占星術師でもあって実業家でもある彼に、
8割がた占いをしてもらうために、2割は仕事の相談をするためにひとりで徳島まで遊びに行ったのだった。

結果どうなったかというと、仕事に関してはとりあえず今は空きが出なそうだから、
ひとまずわたしを雇うことはまだ先の話になりそうだ・ということになり、占いの結果はといえば、

向こう4年間は特に変化のない同じような毎日が続くでしょう・というものだった。

23歳くらいの時に香港で文鳥占いをした。
籠の中にいる文鳥3匹うちの1匹がちょこちょこでてきておみくじをひくと
おばさんがそれを読んで広東語で何か言う
その時一緒に旅をしていた島尾先生がそれを翻訳して

「あなたは若すぎてまだ未来が決められない」

と言った

若すぎて決められない未来がいったい何歳までつづくのかわからないけど、
そのときのわたしは大変素直だったので、その結果に満足した。
真夜中の香港島の場末で謎のおばさんと文鳥による占いをうけただけでかなり満足度は高かった。

日本人のわたしでもこんな満足できるなら、
アジア好きのヨーロピアンならうれしくて気絶かもしれない。

このように占いはいつも満足度が高いことが重要と思う
しかしいつも大変満足度の高い小田さんの占いであったが、今回は実はその点で不満だった。

特に変化のない同じような毎日が向こう4年も続いたら拷問だ。

その夜は小田さんが車を飛ばしてくれて市内をぬけて、山の中にずんずん入っていって 
佐那河内村の島朝崎さんの家にお泊りした。
小田さんが会いに行く用事があったので、ついでに一緒にいって広いお家だし泊めてもらったらいい・となったためだ。

日本昔話にでてくるようなまぁるいぽこぽこしたお山のなかに車でわけいっていくと、 
突然ひろーい平地が現れて、その敷地の中に古いおうちと新しいおうちが2軒少し間を置いてたっている。
さっきまで上空にあったはずの月が、
いつのまにか地面につきそうなほど近づいて下がっておうちとおうちの間にいて、
赤く赤く夜を照らしていた。

島朝崎さんとかわいい奥さん、それとじいの3人が迎えてくれて、突然の宴が始まった。 
小田さんがじいに大変好かれていたため、小田さんが突然つれてきた謎の女の子も大歓迎され、
金箔入りの日本酒を浴びるように飲まされる。

おいしい島朝崎さん特製の鍋や、砂肝と大根おろしのあえもの、カルパッチョ、お刺身 
田舎のおうちってご飯がたくさんあって豊かでいいなぁなんて思って出されるがままに食べていると、
どこからか犬の声がした・



わっわっ



犬が鳴いてますねぇ?というとクッキーだよと言われる。
お母さんが恋しくて鳴いているという。




2週間前からクッキーのお母さんのバービーは行方不明なのだという。
ある朝起きたら綱がはなれていて、いなくなっていた。
まだ生まれて2ヶ月のクッキーがひとりで犬小屋で眠っていた。
誘拐かもしれないので捜索願いも出した。
しかしこの村では、時々犬がいなくなる。
時々犬自身が、自分が犬か人間かわからなくなるときがある。
そんなふうに、悩むことを覚えた犬を不憫に思った山の神様が
夜中にこっそり綱をはずして、
犬を人にかえてしまうことがあるそうだ・



なんにも世話できんけん、いまばあがおらんからのう

ばぁはいまどこにいるんですか?

、、、病院じゃ

えーいつかえってくるんですか?

、、、、わからん

じぃはばぁの不在が、さみしくてしょうがない。おなじくさみしいクッキーがわ、わっと鳴くと

ほうらー!うるさいぞーあまえんぼめぇ!

と怒鳴った


その夜はクッキーのことを考えながら寝た
わたしが寝かせてもらった、じいが住んでるはなれの隣に犬小屋があるけど、
まどからのぞいてみてもクッキーは小屋の中から出てこないので見えない


そこでそっと近づいてみると、
小さく唸る。
まだ子供だから知らない人がこわい
それでもちょっとずつちょっとずつ近づいて、手のにおいをかがせて安心させて、
あごのところをなでてみる

においをかいでたクッキーが小さな舌で手の先をぺろぺろなめた

ほぼちゃいろとしろの毛のかたまりのような状態で、目がたれめで手足がみじかい
耳がなんとなく立っていて、しっぽの丸まった正真正銘日本犬

クッキーがわたしのてにじゃれてきて甘噛みしようとする

よし、とやっとだっこしようとしたところで目が覚めた。
そして目が覚めたらわたしの隣には人間になったクッキーが眠っていた。




その日の朝からおかしなことがたくさん起こった。

まず朝起きて島朝崎さんの家の居間に行くと、
当たり前のようにお茶碗が2膳用意してあって、お箸もちゃんと二組ある。

試しに小田さんは、、?と聞いてみると、昨日の夜遅くわたしが寝た後帰ったという。 
朝ご飯どうぞーと言われるとわたしの隣でクッキーがわーいただきまーすとかいってお味噌汁をすすって、すごくおいしいですーと奥さんに言っている。

突然の事態がうまくのみこめずにご飯がすすまないでいたら、手伝おうか?といってわたしのご飯とお魚を半分食べるクッキー。
ご飯がおわって荷物をまとめて、家をでるとき、ちらっと犬小屋をのぞいたら、そこには犬は一匹もいない。
さいごにじいにお礼を言いに行こうとなって、お世話になりました、また遊びにきますね、
とわたしが言うとクッキーがじいに

次いつ来られるかわからないけど、またすぐ来ますね、

と言った。

奥さんがバス停まで送るから、というので車に乗り込んだら、
いつのまに用意したのかわからないけどクッキーも大きな荷物をもって一緒に車に乗り込んで、とうとう佐那河内のおうちを出発。
また遊びにきてくださーい、クッキーもね、という奥さんにバス停で手を振って、とうとうわたしたちはふたりきりになった。

市内行きのバスの中で、わたしたちはずっと黙ったまま外の景色をみていたけど、とうとうたまらなくなってわたしは、

あの、市内に行くのは、初めてなの?
とクッキーにたずねた

んーん、2回め、ほんとは市内で生まれて、佐那河内のおうちにもらわれたんだ、
とクッキーが言った

そっか、ねーお母さんはどこにいったの?

お母さんわかんない、多分、お父さんを探しに行ったんじゃないかなー会いたがってたから、

そっか、ねぇ、佐那河内のおうちに、いなくていいの?

うん、いいんだ、自分で出て行くって決めたから、

でもなんで?

なんでだろ、うーんわかんない、けど、そうしたほうがいい気がして、

そっか、なんかごめんね、連れてきちゃったみたいで、

え、ぜんぜんいいんだよ、だって一緒に来たくて来ちゃったんだから、

と言った。
一緒にきたくて、来ちゃったのか、、と思って、

ねぇ、クッキーは誰が好きなの?
ときいたら、

うーんやっぱり、お母さんかなぁ、じいもすきだけど、すぐ怒鳴るかんね、
と答えた

黒くてまっすぐの短い髪の毛と、やはりたれ目の目にしっかりとした眉毛で背はわたしよりも高いし体も大きい。
犬だったら子犬だけど人になったらもう20代くらいの青年で、
でもやはり耳はなんとなく立っていて、瞳の黒い正真正銘日本男児

その夜乗り込んだ夜行バスのチケットはわたしがネットで予約したものだけど、
いつの間にか席は二席とってあって、
わたしとクッキーは一晩中バスに乗って東京に帰った。


犬が寝言をいうのをご存知だろうか、眠りながら吠える犬を見たことがある?
クッキーは眠るとよく寝言を言った。


おん、おん、おん、(口を閉じて吠えているため、おん、になる)おーーーーん


と叫んで目を覚ましてあたりをきょろきょろしてまた眠る。
やはり元犬だから自分が犬である夢をいつも見るようだ。


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